昔の話4

父が出て行ってから、祖母は暫くの間私の事を良く思ってなかったそうです。まあ籍も入れず、する事だけして出来ちゃった成行きの子供を無条件で突然受け入れろっていうのは急には難しいだろうなと思います。ただでさえ父親の事を良く思っていないのに。その事を知ったのも、とてもショックでした。昔から面倒を見てくれて、色んなところに連れていってくれて、ご飯も一緒に食べに行ったりするおばあちゃんに、本当は昔嫌われていた。しかも、私ではどうすることも出来ない理由で。けれど、お兄ちゃん(叔父さん)の言った「この子も姉さんの子供なんだから」という言葉で考えを改め受け入れてくれたそうです。私はお兄ちゃんが居てくれなかったら今頃どうなっていたのかも、今も考えたくありません。

分かってるんです。今も本当の本当に本気で嫌いだったら、面倒なんて見てくれていないし、ご飯にも遊びにも一緒に行ってくれないなんて事は分かってるんです。けれど、その時の私には恐怖で、不安で仕方ありませんでした。家族という心の拠り所が壊れてしまうと思ったんです。おばあちゃんは私の事をどう思ってるのか。まだ嫌いなんじゃないか。家族だと思ってたのは私だけで、本当はずっと…。今も、時々そんな考えがよぎります。

 

生い立ちを聞いたその瞬間こそは、笑えたんです。寧ろ笑うしかなかったんです。だって許容出来る容量なんか会社のごたごたでとっくに超えていて、言葉通りまるで作られたそんなドラマみたいな話をすぐにはいそうですかと受け入れられるほど物分りは良くないし、残念ながらそんなに都合よく出来ていないんです。

話を聞いた日、帰ってきて、布団の中で真っ暗闇の中たった一人になって、聞いた話が頭の中を巡りました。その時の私は、現状と過去を照らし合わせてしまいました。今、自分がこんな事になっているのは元を辿ればクズな父のせいだと。

父が私のお母さんと出会わなければ。

私のことを生まなければ。

私なんか生まれて来なければ。

他に流産していた兄か姉が私の代わりに生まれてきてくれて、私が流産していれば良かったのに。

おろしてくれれば良かったのに。

会社にも行けなくなっているこんな失敗作。

働かなくちゃいけないのに働けない、甘えて逃げてる失敗作。

そんな奴が会社で追い詰められたくらいで仕事も出来ずに食い扶持だけ削って、大好きな家族を苦しめるなんてあっちゃいけないのに。

お金を稼げるなら私じゃなくても良かった。

私が生きていなくちゃいけないのはお金が必要だから。

生まれてきたのが私じゃなければ。

きっともっと上手くいったのに、家族は幸せになれたかもしれないのに。

ごめんなさい。ごめんなさい。私なんかが娘で、妹で、孫で、姪で、ごめんなさい。

もっとまともな人間だったら面倒かけなかったのに。

こんなクズ過ぎる自分のせいで大好きな家族に迷惑かけてるのかと思うと情けなくて申し訳なくて、惨めだ。

 

父親に捨てられた?

母親には騙されていた?

姉とは半分他人だった?

祖母には嫌われていた?

私は祝福されずに生まれてきたんだ。

別に必要のない要らない子だったんだ。

誰からも愛されていなかった。

なら、何の為に今生きてる。

どうしてこんな仕打ちを受けてる。

それでもなお私が生きる理由ってあるのかな。

何で私はここに居るの。

お兄ちゃんはどうして私なんかの事庇ってくれたの。

もう何を信じればいいのか分からない。

この先どう生きればいいのか分からない。

この世界は、とても気持ち悪い。

 

自己の存在否定、自問自答、八つ当たり、父親への憎悪、現実逃避。ありとあらゆる感情や思考が止まりませんでした。

 

その夜私は、姉と母に気付かれないように布団の中で声を殺して泣きました。